読みもの

2025/08/06 04:54


さつまいもが甘くなるのは「科学」です

「さつまいもは時間を置くと甘くなる」と聞いたことはありませんか?
実はこの甘みの変化は、でんぷんが糖に変わる化学反応によるものです。
本記事では、その科学的な理由と、家庭でできる甘みを引き出す方法をご紹介します。


1. 甘くなる秘密は「β-アミラーゼ」

さつまいもの主成分はでんぷん(アミロース・アミロペクチン)で、収穫直後は甘みがほとんどありません。
ここに登場するのが
β-アミラーゼ
という酵素です。

  • β-アミラーゼは、「でんぷんを麦芽糖(マルトース)」に分解する働きがあります。

  • 活発に働くのは「60〜70℃」の温度帯。

  • この温度を長く保つことで、甘み成分が効率よく作られます。

農研機構の研究でも、β-アミラーゼの最適温度は65℃前後とされ、60〜70℃を保つことで糖化が促進されることが確認されています。


2. 貯蔵(追熟)で甘みは倍増する

さつまいもは収穫後も呼吸代謝を続け、ゆっくりとでんぷんを糖に変えていきます。
この現象を「追熟」と呼びます。

糖度の変化(鳴門金時の例)

貯蔵期間生の糖度(Brix%)加熱後の糖度(Brix%)
収穫直後約6.6%約15.3%
約3ヶ月後約13.7%約19.0%

出典:京都教育大学 環境教育研究年報 第20号(2012)

つまり、収穫直後よりも3ヶ月追熟させた方が、生の状態で糖度が2倍以上になり、加熱後の甘さも大幅にアップします。


3. 家庭でできる追熟のコツ

  1. 温度:13〜15℃が理想(暖房や直射日光は避ける)

  2. 湿度:乾燥しすぎないよう、新聞紙や段ボールに入れる

  3. 期間:最低2〜3週間、甘さを最大にするなら1〜2ヶ月


4. 甘みを最大にする加熱方法

  • 低温長時間加熱がポイント

  • 60〜70℃の時間を長く保つ調理法が◎

おすすめの調理法

  • 石焼き芋(遠赤外線+低温長時間)

  • オーブン(130〜150℃で90分以上)

  • 炊飯器(保温モードで1〜2時間)

75℃を超えると酵素は働かなくなりますが、香ばしい風味(メイラード反応)が加わり、さらにおいしくなります。


まとめ

  • さつまいもの甘みは、β-アミラーゼがでんぷんを麦芽糖に変えることで生まれる

  • 追熟(13〜15℃で1〜3ヶ月)で糖度は大きく上がる

  • 加熱時は60〜70℃を長く保つことで甘みが最大化する

おいしいさつまいもは、科学と時間の贈り物です。
ぜひご家庭でも、追熟+低温長時間加熱で「極甘焼き芋」を楽しんでみてください。


📚 出典

  1. 京都教育大学 環境教育研究年報 第20号(2012年)
     谷津麻子・中西洋子・湯川夏子・梁川正
     「サツマイモの貯蔵にともなう品質変化 ―調理実習での使用に向けて―」
     収穫直後と3か月後の糖度変化(生・加熱後)を比較し、追熟による糖度上昇を実証。
     PDF:https://www.kyokyo-u.ac.jp/cee/20-9.pdf

  2. 農研機構(NARO)
     「β-アミラーゼ活性とさつまいもの甘味形成」
     最適温度は65℃前後であり、60〜70℃を長時間保つと糖化が促進されることを報告。

  3. 東京ガス「ウチコト」暮らしの科学コラム
     「焼き芋がおいしくなる科学」
     β-アミラーゼの働きと低温加熱の重要性を消費者向けに解説。
     URL:https://uchi.tokyo-gas.co.jp/topics/3494

  4. JA北新潟
     「さつまいもの追熟方法」
     13〜15℃で1〜2ヶ月貯蔵すると甘味が増すことを農協の視点から紹介。
     URL:https://ja-kitaniigata.or.jp/news_column/3468/

  5. Calbee Future Labo(カルビー)
     「さつまいもの甘さの秘密」
     でんぷんからショ糖・マルトース・グルコースへの変化を図解付きで説明。
     URL:https://www.calbee-ksp.co.jp/column/labo/2024/12/1/